ひとりの人間としてのヌルミ
競走の世界に彼ほど影響を与えた人物は後にも先にもいない。彼は競技としての競走にに世界の注目を集め、世界は彼を全スポーツ史における偉大なアスリートとして崇敬した。
Cordner Nelson著 『Track’s Greatest Champions』Tafnews Press出版1986年
晩年ヌルミは自分のトレーニング方法に否定的な評価を下すようになった。当時のスタンダードからして十分以上のものであった彼の日々のプログラムは、主に緩やかなペースで走る長距離と、それに先んじる同距離のウォーキングだったが、現代のスポーツ界で常識となっている緻密で効果的なトレーニング方法と比べるともちろん、不十分に感じられて仕方のないものかも知れない。彼自身、スピードトレーニングを重視しだしたのは、アスリートとしてのキャリアの終盤であったことを認めている。ヌルミの大きな業績は、安定したペースを維持することの重要性を認識してのことだが、またこれが彼の能力が最大限に発揮されることの妨げになったという見方もある。しかしながら、歴史的背景を考えあわせると、ヌルミの業績は素晴らしいというほかない。
Roberto L. Quercetani著『Athletics : A History of Modern Track and Field Athletics 1860-1990』Vallardi & Associati 出版 ミラノ 1990年
パーヴォ・ヌルミは人間社会の外側で生きている。彼はいつも、深刻で、より深く内向し、悲観的で、不寛容だ。彼にはどこか峻厳なところがあり、完全な自己抑制で、感情の起伏を一切表に現さない。‐中略‐ 彼の心の風景とはどの様なものであろう。なぜ、これほどまでに人間らしさの表れがないのだろう。彼はスポーツの、トレーニングの、記録更新に体と魂を捧げきり、その他の世界に一筋の考察、注意、自由な時間を向けることがないのだろうか。同国人が語るところでは技術学校の生徒であり、スウェーデン人はプロと看做すこの27歳のアスリートがアマチュアであるというのは、名ばかりのことではないのか? ヌルミの野心と自尊心は、勝利や、民衆が捧げる崇敬と名誉を超えるほど強烈なのものなのか?それともヌルミは単に生計の手段をスポーツに見出し、より長くキャリアを続けることに専念しているだけの一介の男に過ぎないのか?時がこれらの疑問に答えてくれるだろう。何れにしてもヌルミの絶頂が長く続くはずはない。昨今のヌルミは痩せてきって、以前にもまして黙然とし、殻に閉じこもって人間らしさは失われるばかりだ。動機が何であれ、スポーツ熱狂者であることに間違いないこの比類のないアスリートが我々に投げかけた謎を解く鍵は、遅からずヌルミ本人が提示してくれるに違いない。
Gabriel Hanot著 『Le miroir des sports』1924年
アスリートの性格を的確に描写するのは、大抵の場合容易なことではないが、パーヴォ・ヌルミに関しては、これはいたって簡単だ。伝聞と既成事実が一致して示すところ、この偉大なアスリートは強靭な精神力を持ち、もの静かで自信に溢れた人物だ。我々はこの『驚異のフィンランド人』にまつわる伝説を事実より取り除くために少なからぬ努力をしたが、この男は数々の信じ難い行いをやってのけたといわれ、これは本人も否定しないところで、(実のところ、肯定も否定もしなかったといったほうが妥当なところだが。)やはり伝説の人物が現世に血と肉を得たような感がある。彼の名前、パーヴォ・ヌルミは全世界に知られている。また、彼が報道業界から得たニックネーム『無双のパーヴォ』、『フィンランドの怪人』という名もそうだ。スポーツ界の知識人、報道記者は、その他のフィンランドが生み出したランナーのことは殆ど知らないが、ヌルミのことも、実在の人間の様には感じていない。彼は、喩えていうならば、スフィンクスのような難解な謎、雲の上の神のような存在だ。彼が始終何かドラマの中で役を演じているように感じた者もあったが、実際のところ、周囲に生じた伝説の中の像と違わない人物であったようだ。何れにしても、周囲の喧騒とは相容れず、強く物静かに絶対の自己統制、混じり物のない野心を追求したパーヴォ・ヌルミは、スポーツ界において、ナポレオン・ボナパルトと比類する人物ではなかっただろうか。
Ron Clarke / Norman Harris共著 『The Lonely Breed』Pelham Books出版 1967年
NURMI
Hiilimurskan kylmä valtias,
erämiesten veri virtaa suonissas.
Kevätmyrskyn kiitäiss’ yli maan
korven syliin painut tuulta nopsempaan.
Sammalpolultasi ruskealta
aukee yli maailman sun vauhtis valta.
Missä vaellatkin kilpatiellä,
liput ympärilläs hulmahtavat siellä,
äänet tuhannet kuin myrsky pauhaa,
mutt’ ei mikään häiritse sun sielus rauhaa.
Peloissansa vavahtelee maa,
kun sun piikkikenkäs rataan rasahtaa.
Ken sun seuraas tohtii, jälkeen jää;
vauhtis järkkymätön kaikki näännyttää.
Aika voittaa voi sun ainoastaan,
taistelet vain kellon viisareita vastaan.
Kansa seuraa ilmettäsi mykkää
uskoin ettei rinnassasi sydän sykkää.
Mutta pauhinasta katsomon,
voittoas kun juhlii jättistadion,
muistuu mielees tummat salot, veet,
jotka kehtos ympärill’ on kohisseet.
Yrjö Jylhä: Viimeinen kierros,
Porvoo 1931.